こんにちは、けいです。
匿名の質問箱に、こんな質問をいただきました(個人が特定されないよう、少し言い方を変えています)。
「小学校の教員です。妻が放課後等デイサービスで児発管(児童発達支援管理責任者)として働いていて、大手のフランチャイズのオーナーとして自分の事業所を経営したいと言っています。私は教員の身分がありますが、妻が児発管、私が施設管理者として、休日に妻の施設で働くのはありでしょうか?」
「子どもに関わる仕事で独立したい」「配偶者が福祉の専門職で、夫婦で事業をしたい」という相談は、教員の間でもよく聞きます。この質問には、お金の話として大事な論点が3つ入っています。①教員はどこまで手伝えるのか、②フランチャイズは本当に必要なのか、③放デイは事業としていくら残るのか、です。
答えを先に言うと、教員の夫が「施設管理者」や「役員」になるのは現実的に無理です。兼業の許可の前に、放デイの指定基準で止まります。手伝うなら、人員基準の外で無報酬のボランティアという形になります。そして、児発管の経験がある奥さんなら、フランチャイズに加盟せず自分で小さく始めるほうが、お金の面では有利だと思います。この記事では、法律と指定基準、そして福祉医療機構が公表している放デイの経営データで、その理由を整理します。
📌 この記事でわかること
- 教員(地方公務員)の兼業の線引き——役員・報酬ありの従事は許可制、無報酬なら何ができるか
- 放デイの「管理者」に休日だけではなれない理由(人員基準)
- フランチャイズの費用(加盟金・ロイヤリティ)と、本部が売っているもの
- 放デイのお金のリアル——定員10人で年収益3,320万円、人件費68%、利益率6.7%、赤字事業所31.8%(2024年度)
- 自分で始める最低条件(法人格・児発管の要件・職員数・開所までの期間)と、夫婦でいちばんきれいな形
結論:教員の夫は「管理者」にも「役員」にもなれない。手伝うなら配置基準の外で無報酬
| 夫(教員)の関わり方 | できる? | 理由 |
|---|---|---|
| 法人の役員(取締役・代表) | 現実的に無理 | 地方公務員法38条で許可制。教育委員会が営利企業の役員就任を許可する例はほぼない |
| 施設の「管理者」として休日に働く | 無理 | 兼業許可の前に、放デイの指定基準で止まる。管理者は管理業務に専従が原則で、平日の営業時間にいない人は指定申請が通らない |
| 報酬をもらって休日に職員として働く | 許可が必要(原則出ない) | 報酬を得て事業に従事するので38条の許可対象。教員で営利法人の職員兼業はまず許可されない |
| 無報酬で、空いた時間に手伝う | できる | 報酬がなければ38条の許可対象外が一般的。ただし職員の配置人数には数えられない。継続的に手伝うなら服務担当に一言確認が安全 |
つまり、夫ができるのは「人員基準の外で、無報酬で手伝う」までです。事業の主体は妻(妻の法人)、職員は基準どおり雇う、というのが前提になります。
教員の兼業の線引き——地方公務員法38条と、教員だけの特例が使えない理由
公立学校の教員は地方公務員です。地方公務員法38条は、任命権者の許可を受けなければ、営利企業の役員等を兼ねること、自ら営利企業を営むこと、報酬を得て事業や事務に従事することができない、と定めています。「禁止」ではなく「許可制」ですが、教育委員会が営利企業の役員や管理者を許可する例はほぼなく、実務上は「なれない」と考えてください。
教員には、教育公務員特例法17条という特例があります。「教育に関する他の職」や「教育に関する事業」なら、任命権者の許可で兼職できる、というものです。ただし、放課後等デイサービスは児童福祉法に基づく障害児通所支援で、「教育に関する事業」ではありません。この特例の枠には入らないので、一般の地方公務員と同じ38条の扱いになります。
💡 無報酬のボランティアは、38条の「報酬を得て従事」に当たらないので許可は不要、というのが一般的な扱いです。ただし自治体によっては「継続的に事業に従事する場合は届け出を」としているところもあります。妻の事業を継続的に手伝うなら、勤務先の服務担当に「無報酬で家業を手伝う」と一言確認しておくのが安全です。
放デイの「管理者」は休日だけでは務まらない——人員基準
質問の「夫が施設管理者」は、兼業の問題の前に、放デイの指定基準で通りません。放デイの人員基準(定員10人の場合)はこうです。
| 職種 | 人数 | 条件 |
|---|---|---|
| 管理者 | 1人 | 原則として事業所の管理業務に専従。業務に支障がなければ児発管などとの兼務は可 |
| 児童発達支援管理責任者(児発管) | 1人以上 | 専任かつ常勤。研修と実務経験の要件あり |
| 児童指導員または保育士 | 2人以上(定員10人まで) | うち1人以上は常勤。利用児童が10人を超えると5人ごとに1人追加 |
管理者は「専従が原則」で、事業所の運営責任を負う立場です。平日の営業時間(放課後〜夕方)に本業で学校にいる人を管理者として指定申請に載せても、自治体の審査で「管理業務ができない」と判断されます。管理者は妻が児発管と兼務する(兼務は認められています)のがふつうの形です。
もう1つ大事なのは、無報酬の手伝いは配置人数に数えられないことです。配置基準の職員は雇用契約のある人で数えます。夫がどれだけ手伝っても、児童指導員2人(うち1人常勤)は別に雇う必要があります。「夫が手伝えば人件費が浮く」という形にはなりません。
フランチャイズは必要?——本部が売っているものと、その値段
質問の中で私がいちばん引っかかったのは、ここです。放デイをフランチャイズで始める必要が本当にあるのか。
放デイは「看板」で選ばれる業界ではない
コンビニなら、知らない名前の店より見慣れた看板の店に人は入ります。でも放デイの利用者は、市町村から「受給者証」をもらった子どもです。保護者は、相談支援専門員(計画を立てる人)や学校、自治体の窓口からの紹介で事業所を探すことが多く、「全国チェーンだから」で選ぶ業界ではありません。放デイの事業所名で、誰もが知っているブランドを思い浮かべられる人は、ほとんどいないはずです。
本部が売っているのは、名前より「開業の手続きとノウハウ」
では放デイのフランチャイズ本部は何を売っているのか。各社の案内を見ると、主にこの4つです。
- 指定申請の代行・物件探しの支援(自治体ごとに違う基準をクリアする手続き)
- 療育プログラム・個別支援計画のひな形
- 人材採用の支援(児発管・児童指導員の確保)
- 金融機関への紹介(融資が通りやすい)
これは、初めて福祉事業をやる人には価値があります。でも、児発管として現場で働いてきた人は、療育プログラムも個別支援計画も、職員の確保の難しさも、すでに知っています。お金を払って買う必要が薄いノウハウだ、というのが私の見方です。
フランチャイズの費用
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 加盟金 | 200〜300万円(例:ある本部は加盟金200万円、別の本部は250万円+開校サポート費50万円) |
| ロイヤリティ | 売上の5%前後、または月額固定。ほかにシステム利用料・広告費がかかる本部も |
| 開業資金の例(本部の試算) | 加盟金200万+内外装500万+設備100万+研修60万+その他300万=約1,160万円 |
内外装や設備は、自分で始めても必要です。違うのは加盟金と、毎月のロイヤリティ。後で見るように、放デイの平均的な収益は年3,300万円前後で、利益率は6.7%(年220万円くらい)です。売上の5%のロイヤリティは年165万円。利益のほとんどを本部に払う計算になります。「相当儲かるから手数料を払ってもいい」という業種ではありません。
放デイのお金のリアル——定員10人で、いくら残るのか
福祉医療機構(WAM)が、放デイ825事業所の2023年度・2024年度の決算を比べた調査を公表しています(2026年3月)。平均像はこうです。
| 項目(2024年度・825事業所の平均) | 数字 |
|---|---|
| 定員 | 10.4人 |
| 年間営業日数 | 280日 |
| 利用率 | 89.1%(定員10人なら1日約9人) |
| 利用児童1人1日あたりの収益(単価) | 12,747円 |
| 1事業所あたりの年間収益 | 3,320万円 |
| うち人件費 | 2,253万円(人件費率67.8%) |
| 経費 | 696万円(経費率21.0%) |
| 従事者数 | 6.3人(うち児童指導員・保育士4.0人) |
| 利益率(サービス活動増減差額比率) | 6.7%(約220万円) |
| 赤字の事業所の割合 | 31.8%(前年36.1%) |
1人1日12,747円というのは、2024年度の報酬改定で「支援時間の区分」ができ、延長支援加算を取る事業所が30%から72%に増えて、単価が628円上がった結果です。収益の9割は国保連(公費)から入り、利用者の負担は1割。しかも世帯の所得に応じて月の上限があり、多くの世帯で月4,600円(住民税非課税世帯は0円、所得の高い世帯で37,200円)です。利用者から見ると安く、事業者から見ると単価は公定価格、という構造です。
💡 平均の利益率6.7%には、赤字の事業所も含まれています。同じ調査で黒字と赤字の事業所を比べると、収益の差は年850万円超で、いちばん効いているのは「利用率」でした。つまり放デイの経営は「定員を埋め続けられるか」でほぼ決まる、ということです。これは看板ではなく、相談支援専門員や学校との関係、支援の評判で決まります。
オーナーが児発管を兼ねる場合、児発管の人件費(年400〜500万円程度)は上の人件費2,253万円の中に入っています。つまり妻の取り分は「児発管としての給料+利益の220万円」というイメージです。勤め人の児発管より確実に増える、とは言い切れない数字ですが、自分の方針で運営できることと、将来2か所目に広げる余地があることが、独立の価値になります。
自分で始める最低条件——法人格・児発管・職員・半年
「自分で小さく始める」と言っても、放デイは個人事業ではできません。最低限の条件はこれです。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 法人格 | 株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人など。個人事業では指定が受けられない |
| 指定申請 | 都道府県または政令市・中核市に申請。自治体によって説明会参加や図面の事前確認が必要。地域によっては新規指定を止める「総量規制」あり |
| 児発管の要件 | 相談支援・直接支援の実務経験(資格により5〜8年)+基礎研修→実務2年→実践研修。修了後は5年ごとに更新研修。妻がすでに児発管なら、この要件はクリア済み |
| 職員 | 定員10人で児童指導員・保育士2人以上(うち1人常勤)。管理者は妻が児発管と兼務可 |
| 設備 | 指導訓練室は利用者1人あたり2.47㎡以上(東京都4.0㎡など自治体で上乗せ)、建築基準法・消防法への適合、送迎車 |
| 期間 | 法人設立→物件→指定申請→開所まで半年前後 |
| 運転資金 | 開業当初は固定費(人件費)が重く、初年度は赤字が多い。中小機構の案内では「半年分+約2か月分」の運転資金を勧めている |
初期費用は、物件の内外装・設備・送迎車・運転資金で、フランチャイズでなくても1,000万円前後を見ておく必要があります。ここは本部の試算と変わりません。変わるのは、加盟金と毎月のロイヤリティがないことです。
夫婦でいちばんきれいな形
私なら、こう組みます。
- 妻が法人を作り、代表になる。児発管と管理者は妻が兼務。夫は役員にも職員にもならない
- 児童指導員・保育士は基準どおり雇う。夫の手伝いは配置人数に数えないので、最初から職員で組む
- 夫は無報酬で、空いた時間に手伝う。送迎の運転、行事、書類の整理など。継続的に手伝うなら、勤務先の服務担当に「無報酬で家業を手伝う」と伝えておく
- 家計には妻の役員報酬で入れる。夫がお金を受け取る形は作らない
- フランチャイズは、児発管の経験があるなら使わない。指定申請だけ行政書士に頼む(10〜30万円程度)ほうが、加盟金とロイヤリティよりはるかに安い
「夫が管理者として働く」形にこだわると、兼業と指定基準の両方で詰みます。教員の身分を守りながら家族で事業を回すなら、夫は「お金を受け取らない・名前を出さない・配置に入らない」の3つを守るのがいちばんきれいです。
よくある質問
Q. 夫が教員を辞めて、夫婦で経営するなら?
A. 辞めれば兼業の制限はなくなるので、夫が管理者や役員になれます。ただし、放デイの平均収益は年3,300万円・利益率6.7%で、夫婦2人分の給料を出せるかは利用率次第です。教員の給料(教員の副業と収入の記事で書いたとおり安定していて福利厚生も厚い)を手放す前に、妻の事業所が1年回ってからでも遅くありません。
Q. 妻がオーナー(代表)と児発管を兼ねられますか?
A. 兼ねられます。児発管は「専任かつ常勤」ですが、代表取締役や管理者との兼務は認められています(事業所の業務に支障がない範囲)。小さな事業所では、オーナー=児発管=管理者という形がもっとも多いです。
Q. 法人を夫の名前で作るのは?
A. やめてください。夫が代表・役員になること自体が38条の許可対象で、許可は出ません。無報酬でも役員はダメです。
Q. フランチャイズのメリットが大きい人は?
A. 福祉の現場経験がなく、児発管を外から雇う必要がある人です。療育プログラムも申請も採用も、全部買ったほうが早い場合があります。逆に、児発管の経験者がオーナーになる場合は、買うものがほとんど残っていません。
まとめ
✅ 教員の妻が放デイを開業するとき、3行まとめ
・教員の夫は役員も管理者も現実的に無理(地方公務員法38条+放デイの指定基準)。手伝うなら配置基準の外で無報酬。お金は妻の役員報酬で家計へ
・フランチャイズは加盟金200〜300万円+売上5%前後のロイヤリティ。放デイの平均利益率6.7%(年約220万円)だと、利益の大半を本部に払う計算。児発管の経験者なら自前で
・放デイの平均は定員10人・利用率89%・1人1日12,747円・年収益3,320万円・人件費68%・赤字事業所31.8%。経営は「定員を埋め続けられるか」でほぼ決まる
質問をくださった方、ありがとうございました。放デイの基準やフランチャイズの費用は、私もAIを使って一から調べました。知らないことが多く、こちらも勉強になりました。子どもに関わる仕事で独立したい教員は多いと思うので、ほかの業種(学習塾・保育・習い事)でも同じ考え方で整理できます。質問箱にどうぞ。
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出典(公式データ)
- 地方公務員法 第38条(営利企業への従事等の制限)/教育公務員特例法 第17条(教育に関する兼職等)——e-Gov法令検索
- 福祉医療機構(WAM)「2024年度 児童系障害福祉サービスの経営状況について」(リサーチレポート 2025-015・2026年3月)——放課後等デイサービス825事業所の同一事業所比較:定員10.4人・年間営業日数280.4日・利用率89.1%・利用児童単価12,747円・1事業所当たりサービス活動収益33,206千円・人件費率67.8%・経費率21.0%・サービス活動増減差額比率6.7%・赤字事業所割合31.8%・延長支援加算算定割合71.8%・経営主体は営利法人43.6%/社会福祉法人41.6%/NPO法人8.8%
- こども家庭庁・厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」——放課後等デイサービスの基本報酬に支援時間による3区分(30分以上1時間30分以下/1時間30分超3時間以下/3時間超5時間以下〔学校休業日のみ〕)を創設
- 兵庫県「放課後等デイサービス 人員・設備・運営基準」(令和6年)、大阪府「放課後等デイサービスの指定基準」、福山市「人員基準」——管理者1人(原則専従・兼務可)、児発管1人以上(専任かつ常勤)、児童指導員・保育士2人以上(うち1人常勤)
- 各自治体の児童発達支援管理責任者研修の実施要項(福岡市・兵庫県・広島県など)——基礎研修→実務経験2年以上→実践研修、修了後5年ごとに更新研修
- 中小機構 J-Net21「放課後等デイサービスの開業」——法人格が必須、総量規制、指導訓練室の面積基準(1人あたり2.47㎡・東京都4.0㎡など)、令和4年度の利用は月30万人超・費用額約4,669億円、運転資金は半年分+約2か月分
- 放デイのフランチャイズ費用の例(本部・紹介サイトの公表値)——加盟金200万円+内外装500万円+設備100万円+研修60万円+その他300万円/加盟金250万円+開校サポート費50万円・ロイヤリティ5%/一般的な加盟金相場100〜300万円。いずれも時期・本部で変わる参考値
- ※利用者負担の上限月額(0円/4,600円/37,200円)は障害児通所支援の所得区分による一般的な区分。兼業の許可の運用は自治体ごとに異なるため、実際には勤務先の服務担当に確認してください(2026年11月1日確認)