先日、職場の同僚と話していて、少し気になることがありました。
その方は投資信託もやっているし、お金の話もよくする。いわゆる「自称・お金に強い系」の人です。そんな彼が、貯蓄型保険(おそらく個人年金)を契約しているのを知って、理由を聞いてみました。
「だって、保険料控除で戻ってくるから得でしょ?」
うーん。気持ちはわかります。「控除=お得」というのは、節税の話でよく出てくるフレーズです。でも私には、その計算が少し違う気がした。
「控除で戻ってくるのは税金分だけだし、それを差し引いても、投資信託の方が20年後には大きく上回るんじゃないか」と思って説明したのですが、理解してもらえませんでした。
そこで、実際に数字で計算してみることにしました。
「保険料控除で得」の話、正確に整理する
保険料控除(個人年金保険料控除)の仕組みを、まず整理します。
個人年金保険に加入すると、年末調整や確定申告で「個人年金保険料控除」が使えます。控除の上限は以下のとおりです。
| 税の種類 | 控除の上限額 | 税率20%の場合の節税額 |
|---|---|---|
| 所得税 | 4万円 | 約8,000円/年 |
| 住民税 | 2.8万円 | 約2,800円/年(税率10%) |
| 合計 | — | 約10,800円/年 |
月3万円(年36万円)の保険料を払っても、戻ってくる節税額は年間約1万円前後です。20年間続けたとして、節税の合計は約20〜22万円。
💡 ポイント
「控除で得する」というのは事実ですが、「税金分が少し戻ってくる」というだけです。払った保険料が丸ごと戻ってくるわけではありません。20年間の節税額は約22万円。これが「得」の正体です。
月3万円・20年間、どっちが増えるか計算してみた
では本題です。月3万円を20年間、「貯蓄型保険(個人年金)」と「投資信託(年4%複利)」に回した場合、20年後にいくらになるか比較します。
①貯蓄型保険(個人年金)の場合
払込総額は 3万円 × 12ヶ月 × 20年 = 720万円。
個人年金保険の返戻率は商品によって異なりますが、現在の低金利環境では102〜107%程度が一般的です。仮に返戻率105%とすると、受取額は以下になります。
💡 計算式
720万円 × 105% = 756万円
+ 20年間の節税効果 ≒ 22万円
= 実質 約778万円
②投資信託(年4%複利)の場合
月3万円を20年間、年4%複利で積み立てた場合の計算です。
💡 計算式(積立複利)
月3万円 × 240ヶ月 × 年4%複利
= 約1,097万円
年4%という数字は、全世界株式や米国株インデックスファンドの長期実績として、現実的な想定の範囲内です。保証はありませんが、参考値として使っています。
差額は約320万円——節税効果を足しても届かない
2つを並べて比較するとこうなります。
| 比較項目 | 貯蓄型保険(返戻率105%) | 投資信託(年4%) |
|---|---|---|
| 払込総額 | 720万円 | 720万円 |
| 20年後の受取額 | 756万円 | 約1,097万円 |
| 節税効果(20年) | +約22万円 | — |
| 実質トータル | 約778万円 | 約1,097万円 |
20年後の差額
節税で約22万円得をしても、投資信託との差は約320万円。節税効果は差額のわずか7%程度しかカバーできません。
⚠️ 補足
投資信託は元本保証がなく、年4%の利回りは将来を保証するものではありません。一方、貯蓄型保険は元本が保証される(返戻率が100%を超える)点では安心感があります。ただし、「節税があるから得」という理由だけで選ぶのは、計算が合わないということをこの記事では伝えたいと思っています。
なぜ「控除があるから得」と思ってしまうのか
では、なぜこの誤解が生まれるのでしょうか。
「控除=丸ごと戻ってくる」と勘違いしやすい
「控除」という言葉は、「差し引かれる=少し税金が戻る」という意味なのですが、「控除がある=その分まるまる得する」と誤解されることがよくあります。ふるさと納税や医療費控除の話が広まる中で、「控除=得」というイメージが定着しているのかもしれません。
保険の「安心感」と「節税」がセットで語られる
保険の営業では「万が一のリスクカバー」と「節税メリット」がセットで語られることが多いです。「どうせ払うなら、控除もついてお得でしょ」という言い方は説得力があります。でも、「控除で得する金額」と「投資信託との差額」を数字で比べることは、あまりされません。
比較される相手が「普通預金」になりがち
貯蓄型保険の説明で使われる比較対象は、たいてい「銀行の普通預金(金利0.001%)」です。その比較なら貯蓄型保険の方が有利に見えます。ただ、「投資信託と比べる」という発想が出てきにくい。これが誤解の温床です。
まとめ:貯蓄型保険を持つ理由は「控除」ではない
計算をまとめると、こうなります。
- 個人年金保険料控除で得できる節税額は、年間約1万円・20年で約22万円
- 一方、投資信託(年4%)との差額は20年で約320万円
- 節税効果は差額のわずか7%程度しかカバーできない
- 「保険料控除があるから得」という理由では、数字が合わない
貯蓄型保険を否定したいわけではありません。「元本が保証されている安心感が欲しい」「強制的に積み立てる仕組みが自分に合っている」「万が一の保障も一緒に欲しい」——そういう理由で選ぶなら、それは本人の判断です。
ただ、「保険料控除があるから得」という理由だけで選ぶのは、計算が合いません。
同僚には最終的に理解してもらえませんでしたが、この記事を読んだあなたには、数字で判断してほしいと思います。