こんにちは、けい先生です。都道府県別・教員給料シリーズをやっていて、Xでフォロワーの方から鋭いご指摘をいただきました。
「東京は年収では強いけど、退職金では不利ですよね」
——これ、まったくその通りでした。しかも調べていくうちに、シリーズ13県ぶんの取材で見えてきた「地域手当がすべてを決める」という結論が、たった1か所だけひっくり返る場所があることがわかりました。それが退職金です。
今回は公式の給料表と退職手当のルールだけを使って、そこを全部計算していきます。
結論:退職金に地域手当は1円も入らない
先に結論だけ書きます。
💡 手当ごとに「計算の元になる金額」が違います。
・毎月の給与 → 給料 + 地域手当 + 各種手当(地域手当は入る)
・ボーナス → 給料 + 地域手当 + 扶養手当(地域手当は入る)
・退職金 → 給料月額だけ(地域手当は入らない)
つまり、東京のように「基本給は低いけれど地域手当が高い」自治体は、毎月とボーナスでは有利、退職金では不利という非対称が生まれます。逆に地方の「基本給は高いけれど地域手当ゼロ」の県は、退職金で逆襲する構図です。
このシリーズでずっと「教員の年収は勤務地の手当で決まる」と書いてきましたが、退職金だけは本給で決まる。ここだけルールが違うのです。
退職金の計算式をおさらいする
公務員の退職手当は、国家公務員退職手当法の考え方をベースに、各自治体が条例で定めています。基本の形はこうです。
- 退職日の給料月額:退職する時点の「給料表の額」。ここに地域手当・教職調整額・扶養手当などは含まれません
- 支給率:勤続年数と退職理由で決まる倍率。国の基準では定年退職・勤続35年以上で47.709(約47.7ヶ月分)が上限です
- 調整額:役職や在職期間に応じて上乗せされる部分。ここでは比較の邪魔になるので別扱いにします
📌 大事なのは1行目です。「退職日の給料月額」=給料表に書いてある額そのもの。毎月の給与明細の「支給合計」ではありません。ここに地域手当が入らないことが、今回の話のすべてです。
退職金の基本的な仕組み(勤続年数別の支給率、自己都合との差など)は別記事「教員の退職金はいくらもらえるか、ぶっちゃけ計算してみた」にまとめてあるので、そちらもどうぞ。
東京の教員の退職金を計算してみた
では実際に計算します。東京都の教育職給料表(東京都人事委員会が公開している最新版)で、60歳・2級137号給の教員を想定します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職日の給料月額(2級137号給) | 383,800円 |
| 支給率(定年・勤続35年以上) | × 47.709 |
| 退職手当(本体部分) | 約1,831万円 |
383,800 × 47.709 = 18,310,714円。ここに調整額が上乗せされます。「教員の退職金は2,000万円くらい」とよく言われますが、本体部分だけならこのくらい、というのが実際の数字です。
💡 ここで注目してほしいのは、この計算に地域手当が一度も出てこないこと。東京の教員は毎月7万円以上の地域手当をもらっていますが、退職金の計算式には登場しません。20%という日本一の地域手当が、この瞬間だけ効果ゼロになります。
40歳の本給ランキング——東京は11県中11位
退職金が「給料表の額」で決まるなら、大事なのは各県の給料表そのものです。シリーズで調べてきた11都道府県の、40歳モデル(2級81号給)の給料表の額を並べてみます。
| 順位 | 都道府県 | 給料表の額(2級81号給) | 東京との差 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 愛知 | 398,000円 | +50,300円 |
| 2位 | 京都 | 392,600円 | +44,900円 |
| 3位 | 愛媛 | 391,210円 | +43,510円 |
| 4位 | 広島 | 390,700円 | +43,000円 |
| 5位 | 大阪 | 389,000円 | +41,300円 |
| 6位 | 福島 | 379,800円 | +32,100円 |
| 7位 | 埼玉 | 378,100円 | +30,400円 |
| 8位 | 福岡 | 372,300円 | +24,600円 |
| 9位 | 千葉 | 358,500円 | +10,800円 |
| 10位 | 神奈川 | 358,500円 | +10,800円 |
| 11位 | 東京 | 347,700円 | — |
——東京が最下位です。しかもダントツで。
年収ランキングでは東京は4位(約740万円)につけています。それなのに給料表の額では11県中11位。この「ねじれ」こそが、東京都の給与制度の設計そのものです。基本給を抑えて、地域手当20%で上乗せする——これが東京のやり方なんです(詳しくは東京の教員の給料が高い理由で書きました)。
毎月の給与を受け取っている間は、この設計で何も問題ありません。むしろ得をします。問題は、退職金の計算式が上乗せ部分を一切見てくれないことです。
本給の差は、退職金でいくらになるのか
では、この本給の差が退職金でどれくらいの金額になるのか。差額に支給率47.709を掛けると、こうなります。
| 都道府県 | 東京との本給差(月) | 退職金に換算すると |
|---|---|---|
| 愛知 | +50,300円 | +約240万円 |
| 京都 | +44,900円 | +約214万円 |
| 愛媛 | +43,510円 | +約208万円 |
| 広島 | +43,000円 | +約205万円 |
| 大阪 | +41,300円 | +約197万円 |
| 福島 | +32,100円 | +約153万円 |
| 埼玉 | +30,400円 | +約145万円 |
| 福岡 | +24,600円 | +約117万円 |
| 千葉 | +10,800円 | +約52万円 |
| 神奈川 | +10,800円 | +約52万円 |
月5万円の差が、退職金では240万円の差になります。これが支給率47.709倍という数字の重みです。月々の給料表の差は「たった5万円」に見えますが、退職の瞬間に約47.7倍に増幅されて効いてきます。
💡 愛媛の例が象徴的です。愛媛は地域手当が県内全域0%で、年収では12都道府県中10位。前回の記事では「給料表3位なのに年収10位」という"もったいない県"として紹介しました。でも退職金の土俵に上がると、その給料表3位がそのまま効きます。東京より約208万円多い計算です。年収で56万円負けていた愛媛が、退職金では逆転する——同じ2人の教員なのに、ものさしを変えるだけで勝敗がひっくり返ります。
毎月・ボーナス・退職金——地域手当の効き方は3段階
ここまでの話を、東京の40歳モデル(給料表347,700円・地域手当20%)で整理します。
| もらうもの | 計算の元 | 地域手当は? | 東京の地域手当の効果 |
|---|---|---|---|
| 毎月の給与 | 給料+教職調整額+地域手当ほか | ✅ 入る | 月 約73,000円 |
| ボーナス | 給料+地域手当+扶養手当 | ✅ 入る | 年 約34万円 |
| 退職金 | 給料月額のみ | ❌ 入らない | 0円 |
東京の地域手当は、毎月とボーナスを合わせると年間で約122万円の効果があります。現役の38年間で考えれば4,000万円を超える計算です。これは圧倒的に大きい。
つまり「東京は損」という話ではまったくありません。トータルで見れば東京の教員のほうが生涯収入は多くなります。ただ、退職金という一点だけは、地域手当という武器が使えない——その事実を知っておくかどうかで、老後の資金計画の立て方が変わってきます。
📌 東京の先生へ:退職金は「本給勝負」なので、地方の同僚より少なくなる可能性があります。その分は現役時代の手取りの多さでカバーできているので、毎月の余力をNISAなどに回しておくと、この構造上の不利はきれいに埋まります。
📌 地方の先生へ:毎月の給与ランキングでは下のほうに見えても、退職金では上位に来る可能性があります。「うちは給料が安い」と落ち込む前に、ご自身の県の給料表を一度確認してみてください。
この計算の注意点(正直に書きます)
数字を扱う記事なので、限界もはっきり書いておきます。
- 支給率は自治体ごとに条例で決まります。この記事では国の基準(定年・勤続35年以上で47.709)で統一して計算しました。多くの自治体は国に準拠していますが、東京都をはじめ独自の支給率表を持つところもあります。ここでは「同じ支給率に揃えて、本給の差だけを取り出す」ことを目的にしています
- 調整額は含めていません。実際の退職金にはここに調整額が上乗せされます(役職や在職期間で変わります)
- 60歳時点の号給は人によって違います。採用年齢・昇給の履歴で変わるため、あくまでモデルケースです
- 本給差の換算表は「40歳時点の差が続くと仮定した場合」の試算です。実際の60歳時点の差はこれと完全には一致しません
- 定年年齢の引き上げが進行中です。公務員の定年は段階的に65歳へ移行中で、これに伴い退職手当の扱いも変わっていきます
それでも「退職金の基礎に地域手当は入らない」「給料表の額が高い県ほど退職金は多い」という構造そのものは、どの自治体でも共通です。そこがこの記事で伝えたかった一点です。
まとめ
✅ 教員の退職金、3行まとめ
・退職金の計算の元は「給料月額」だけ。毎月の給与やボーナスと違い、地域手当は1円も入らない
・調べた11都道府県で、東京の給料表は最下位(347,700円)。年収では4位なのに、退職金の土俵では最も不利
・月5万円の本給差は、支給率47.709倍で約240万円の退職金差に増幅される
「教員の年収は勤務地の手当で決まる」——シリーズ13県を調べてたどり着いた結論でしたが、退職金という最後の一点だけは、本給がものを言う。制度を知ると、同じ「先生」でも受け取り方の設計がこれだけ違うのかと驚かされます。
今回の記事は、Xでフォロワーの方からいただいたご指摘がきっかけで生まれました。ありがとうございました。「うちの県も調べてほしい」というリクエストは、XのリプやYouTubeのコメントでぜひ教えてください。
出典(公式データ)
- 東京都人事委員会「東京都職員給料表」教育職給料表(2級81号給 347,700円/2級137号給 383,800円)
- 国家公務員退職手当法および内閣人事局・総務省の退職手当制度資料(退職手当=退職日の俸給月額×支給割合+調整額/定年退職・勤続35年以上の支給割合47.709)
- 各県の給料表:愛知・京都・愛媛・広島・大阪・福島・埼玉・福岡・千葉・神奈川の各人事委員会勧告および給与条例(いずれも令和7年改定後の2級81号給)
- 金額はモデルケースの試算です。実際の退職手当は自治体の条例・勤続年数・退職理由・調整額により変動します