以前、勤めていた学校での話です。
3年生の進路相談シーズン。担任の先生から「A君の希望進路について話し合いたい」と声がかかり、職員室に何人かの教員が集まりました。
A君の希望は、こうでした。
「将来は投資で生きていきたい」
その言葉を聞いた瞬間、ベテランの先生がすぐに口を開きました。「家族が株でもやってるんじゃないか」「投資で生きていくなんて無理だ」「危険な考えだから、きちんと指導した方がいい」——そんな声が続きました。
私はそのとき、何も言えませんでした。
でも、頭の中でずっとひっかかっていたことがあります。その先生たちは、「投資」の中身を聞いたのだろうか。
職員室での反応が、引っかかった理由
「投資で生きていきたい」という言葉に対して「危険だ」と反応すること自体は、わからなくもありません。株の短期売買やFXのような投機的な取引で「一攫千金を狙う」という意味なら、それは確かに不安定で、18歳の若者の将来設計としては現実的ではないかもしれない。
でも、先生たちは誰一人として「どんな投資をしたいの?」とA君に聞いていませんでした。
もしA君が言っていたのが「インデックスファンドへの長期積立で資産を築いて、生活費をまかなえるくらいにしたい」という意味だったとしたら——それは、今の10代・20代にとって、むしろ正しい方向性だと私は思います。
⚠️ ここで伝えたいこと
「投資=危険」という一括りの反応が、子どもたちから正しい知識を奪っている可能性があります。教員が正確な知識を持っていないと、善意の「指導」が誤った方向に働くことがある、という話です。
「投資」は一括りにできない。トレードと積立は全然違う
「投資」という言葉は広すぎます。大きく分けると、以下の2種類があります。
| 種類 | 内容 | リスクの性質 |
|---|---|---|
| 投機(トレード) | 株の短期売買・FX・仮想通貨の値動きを予測して売り買い | 短期で大きく動く。損失が出るリスクが高い |
| 長期積立投資 | インデックスファンド(全世界株・米国株)に毎月定額を積み立てる | 短期では上下するが、長期では成長する傾向がある |
職員室での「投資は危険だ」という反応は、おそらく前者——投機やギャンブルに近い行為——をイメージしてのことだと思います。それなら気持ちはわかります。
一方、後者の長期インデックス積立は、金融庁が推進しているNISA制度そのものです。国が「やった方がいい」と言っている行為を、学校では「危険だ」と教えている。この矛盾が、私にはずっと気になっています。
💡 ポイント
「投資=危険」ではなく、「何の投資をどのようにやるか」で話は全然違います。インデックスへの長期積立は、ギャンブルとは仕組みも目的も別物です。
インデックス積立をやらないと詰む世代の話
なぜ今の若い世代にとって投資の知識が重要なのか。少し数字で見てみます。
年金だけでは生活できない現実
厚生労働省の試算では、現在20〜30代が受け取る年金額は、今の高齢者より2〜3割程度少なくなる見通しとされています。少子化・長寿化が同時に進む中で、「年金をもらいながら普通に生活できる」という前提は、今の若者には通用しなくなっています。
📊 参考データ
・2024年度の標準的な夫婦の年金額:月約23万円
・老後の生活費の目安:月25〜30万円(総務省「家計調査」より)
・毎月2〜7万円の不足が、数十年続く可能性がある
「老後2,000万円問題」として話題になりましたが、あれは「年金だけでは足りない分を自分で用意する必要がある」という当たり前の話です。それを30代・40代から準備するか、18歳から準備するかでは、複利の効果が全く違います。
退職金も、かつてほど期待できない
「教員は退職金があるから安心」という話をよく聞きます。確かに教員の退職金は他の職業と比べれば手厚い方ですが、2000年代以降、段階的に削減が進んでいます。
「退職金と年金があるから老後は大丈夫」という昭和の前提は、今の20〜30代には当てはまらなくなってきています。
インフレという見えにくいリスク
もうひとつ忘れてはいけないのが、インフレです。現金をそのまま持っていると、物価が上がった分だけ実質的な価値が下がります。
年率2%のインフレが30年続くと、今の100万円は実質的に約55万円の価値になります。「貯金があるから安心」という感覚が、じわじわと足元を削っていく——これが現代のリスクです。
だからこそ、A君の「投資で生きていきたい」という言葉には、時代を読んだ本質が含まれている可能性がある。私はそう思います。
なぜ教員はお金に疎くなりやすいのか
「教員はお金の話に疎い」というのは、悪口ではなく、構造的な話です。
身分保障が「お金を考えなくていい環境」を作る
公立学校の教員は、地方公務員です。よほどのことがない限り、クビにはなりません。毎月決まった給与が振り込まれ、共済年金と退職金が保障されている。この構造の中にいると、「自分でお金を管理・運用しなくてはいけない」という必要性を感じにくくなります。
これは教員の怠慢ではなく、環境が生む自然な結果です。人は「必要に迫られなければ学ばない」のが普通です。
多忙すぎて、外の情報が入ってこない
教員の労働時間は長い。授業準備、部活指導、保護者対応、校務分掌——放課後も夜も、頭の中は学校のことで埋まっています。お金の勉強をする時間的・精神的な余裕が、そもそも少ない職業です。
周囲が同じ価値観の人ばかり
教員という職業は、職員室に同じ職業の人しかいません。民間企業のように「同期が転職した」「株で資産を作った同僚がいる」という話が入ってくる機会が少ない。情報の偏りが、知識の偏りになります。
💡 ポイント
教員がお金に疎いのは、個人の問題というよりも、職業環境の構造的な問題です。だからこそ、意識して学ぶ必要があります。
だから教員にこそマネーリテラシーが必要だと思う
ここまで書いてきたことをまとめると、こうなります。
- 今の若い世代は、年金・退職金だけでは老後の生活費が足りなくなる可能性が高い
- インフレに対応するためにも、資産を育てる知識が必要になってきている
- でも教員は、構造的にその知識を得にくい環境にいる
そして、もう一つ大事なことがあります。
教員は、子どもたちの進路に関わる立場です。A君のように「投資で生きていきたい」という夢を話してきた子に対して、正確な知識を持って向き合えるかどうか。「危険だ」と一言で切り捨てるのか、「どんな投資をしたいの?」と一歩踏み込んで聞けるのか。
その違いは、教員自身のマネーリテラシーによって生まれます。
「お金の話は学校では教えない」という時代は、終わりつつある。
高校の授業でも投資・資産形成が学習指導要領に盛り込まれた今、教員がその内容を正確に理解していなければ、子どもに正しいことを伝えられない。
子どもたちの未来のためにも、教員自身がお金を学ぶことは、もはや「個人の趣味」ではなく、仕事の一部だと私は思っています。
僕自身の失敗と、このブログを始めた理由
偉そうなことを書いてきましたが、私自身はどうだったか。正直に言います。
数年前まで、私はマネーリテラシーのかけらもありませんでした。
FPに相談したら保険を7本契約させられ、月5万円以上の保険料を毎月払い続けていました。「先生も入ってますよ」という言葉を信じて、内容もよく確認せずに判を押した。典型的な被害者パターンです。
変わったきっかけは、リベ大(両学長のYouTubeチャンネル)との出会いでした。「お金の勉強をすれば人生は変わる」という言葉が、刺さりました。そこから少しずつ勉強して、保険を解約し、NISAを始め、不動産投資を始め、家計を見直しました。
今でも失敗しながら進んでいます。でも、「知らないまま」よりははるかにいい。
このブログを始めたのは、同じような立場の教員や、子育てをしながらお金に不安を感じている人たちに、「私の失敗と学びを共有したい」という気持ちからです。正解を教える場所ではなく、同じ目線で一緒に考える場所にしたいと思っています。
A君のような生徒を、次は正面から受け止められる教員でいたい——そう思いながら、今日も書いています。